Leading Author ~学会受賞者~

第5回日本骨免疫学会
優秀演題賞紹介

抗フラクタルカイン抗体によるマウスコラーゲン誘発関節炎モデル滑膜血管内単球の制御

池田わたる、根岸(星野)香菜、西岡恵理、中谷智哉、久保井良和、石井直人、安田信之、今井俊夫
(株式会社カン研究所)

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関節リウマチ(RA)治療薬として開発中の抗フラクタルカイン(FKN)モノクローナル抗体は、国内臨床第Ⅰ/II相試験において臨床活性が示唆されている。RA病変滑膜では血管にFKNが発現し、FKN受容体(CX3CR1)陽性単球が多く認められるが、その血管内の挙動については不明であった。本研究では、2光子レーザー顕微鏡を用いた生体内ライブイメージングと組織透明化による3次元解析を行い、マウスコラーゲン誘発関節炎モデルの病変滑膜血管内に単球が集積し、それら単球は抗FKN抗体投与により早期に減少することを明らかにした。上記の作用は、他のRA治療薬(CTLA4-IgとTNFα阻害剤)では認められなかった。本研究により、抗FKN抗体は、血管と単球の相互作用を阻害し、局所炎症を増幅する炎症起点の形成を遮断する新たなRAの治療選択肢となることが示唆された。
論文キーワード:単球、ライブイメージング、組織透明化

著者コメント:
生体中で起きている現象をリアルタイムに観察する定性的なライブイメージング技術と組織を丸ごと3次元で定量解析する組織透明化技術のコンビネーションは、「百聞は一見に如かず」を実現するパワフルな手法です。今後もこれらの技術を駆使してサイエンスに基づいた創薬に貢献していきたいと思っております。

2種類の低分子化合物によるヒト多能性幹細胞の軟骨細胞への分化誘導法の確立

河田学、齋藤琢、田中栄
(東京大学整形外科)

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【背景】ヒト多能性幹細胞(hPSCs)の軟骨細胞への分化誘導法は、多種類のサイトカインを組み合わせた比較的複雑なプロトコルの報告例が主である。低分子化合物はサイトカインと比較して安価に安定的に大量に製造可能であり、低分子化合物のみを用いた簡便なhPSCsの分化誘導法を確立することは、再生医療研究にとって有用である。
【結果】Wnt/βカテニンシグナルの活性化剤及びレチノイン酸受容体(RAR)作動薬を組み合わせ、投与期間や濃度・タイミングを最適化した所、簡便で高効率なhPSCsの軟骨細胞への分化誘導が可能であった。またRA及びWnt/βカテニンシグナルは各分化段階のマーカー遺伝子のエンハンサー領域に作用し、一部は協調しながら分化の制御に直接的に関与していることが示唆された。
論文キーワード:軟骨細胞、多能性幹細胞、低分子化合物

著者コメント:
この度はこのような素晴らしい賞を頂き、改めて御礼申し上げます。学会期間中は天候にも恵まれ、全国から参加した多くの研究者と交流を深めることができ、また骨代謝や免疫学を始めとした様々な分野の発表を勉強する機会にも恵まれ、非常に刺激になりました。

大規模ゲノミクスデータから創薬対象疾患とRepositionable drugを同定する

坂上沙央里、田中宏明、岡田随象
(大阪大学大学院医学系研究科遺伝統計学)

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近年、ゲノム・エピゲノム情報を始めとするマルチオミクスデータが急速に蓄積しており、得られた知見を創薬に活かすための方法論が求められている。ドラッグリポジショニングは有力な方法の一つであり、我々はゲノミクスデータからリポジション可能な薬剤およびその適用疾患を効率的に同定するソフトウェアを開発した。ゲノムワイド関連解析(GWAS)、mRNA発現データ解析、腫瘍における体細胞変異データを入力として、(i)各結果から導出された遺伝子群が治療薬を介して関連している疾患群(ii)各遺伝子群をターゲットとしている薬剤、すなわちリポジション可能な薬剤を網羅的に同定することに成功した。疾患GWASから疾患治療薬が正しく同定されるとともに、血液細胞の特異的遺伝子発現プロファイルから免疫疾患治療薬との強い関連が導かれるなどの新規知見が得られた。今回開発したソフトウェアは非商用利用を目的に一般公開しており、効率的な治療薬開発の一助になることに期待したい。
https://github.com/saorisakaue/GREP
論文キーワード:ドラッグ・リポジショニング、ゲノム創薬

著者コメント:
この度は第五回日本骨免疫学会で私達の研究成果を紹介する機会をいただき、また優秀演題賞に選出いただき感謝申し上げます。開発したソフトウェアは簡単にインストール・使用可能ですので、ぜひ皆様の研究に活用していただければ幸いです。

内軟骨性骨化におけるBMPとWntの新たなクロストーク

塚本翔、倉谷麻衣、関根典子、大久保美里、田中伸哉、自見英治郎、織田弘美、片桐岳信
(埼玉医科大学ゲノム医学研究センター病態生理部門、埼玉医科大学整形外科、九州大学歯学研究院OBT研究センター)

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BMPを筋組織内に移植すると、内軟骨性骨化によって異所性骨化を誘導する。本研究では、BMPシグナルの共役因子であるSmad4を出生後の任意の時期にノックアウトできるマウス(Smad4 cKO)を樹立し、骨格形成におけるBMPシグナルの役割を解析した。Smad4 cKOマウスは、コントロールに比較し一次海綿骨の骨量が顕著に増加していた。さらに、Smad4 cKOマウスの一次海綿骨は、成熟骨芽細胞が増加し、それらはβ-catenin陽性であった。そこで、Smad4 cKOマウスにおけるWntシグナルの解析を行った。すると、Smad4 cKOマウスの成長板軟骨では、Wnt7b mRNAの発現が著しく増加していることが判明した。軟骨細胞にin vitroでBMP処理すると、Wnt7b mRNAの発現が短時間で低下した。新たに樹立した誘導性のSmad4とWnt7bのダブルコンディショナルノックアウトマウスは、骨量増加が認められなかった。
論文キーワード:骨形成、内軟骨性骨化、BMP

著者コメント:
BMPのSmad4を介したシグナルは、Wntシグナルを介して出生後のマウスの内軟骨性骨化を制御していることが明らかとなった。Smad4 cKOマウスは、BMPによるWnt7bの発現抑制が解除され、成長板軟骨におけるWnt7bの発現が上昇し、内軟骨性骨化が亢進したと考えられる。

生体イメージングを用いた骨芽細胞由来・細胞外小胞の可視化とその役割の解明

水野紘樹、上中麻希、石井優
(大阪大学大学院医学系研究科免疫細胞生物学)

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骨芽細胞は石灰化の過程で重要な役割を果たす基質小胞を出すことが知られている。本研究では、骨芽細胞由来細胞外小胞の時空間的な情報を明らかにすることを目的とし、二光子励起顕微鏡を用いて、生体マウス頭蓋骨内での骨芽細胞由来の小胞をリアルタイムに観察を行った。すると、成熟骨芽細胞は細胞外に小胞を出すだけでなく、細胞外に存在する小胞を取り込んでいることが明らかとなった。さらに小胞の機能を解析するため、培養成熟骨芽細胞から採取した小胞を培養骨芽細胞に投与し、培養骨芽細胞の培養骨芽細胞における遺伝子発現の変化について検討した。結果、骨芽細胞の分化マーカーであるOsterix、ALP、オステオカルシンの発現を抑制した。以上より、成熟骨芽細胞の出す小胞は石灰化に寄与するのみでなく、自らの分化や骨形成を抑制し、破骨細胞分化を促進するネガティブ・フィードバック作用を持つことが明らかとなった。
論文キーワード:骨芽細胞、細胞外小胞、生体イメージング

著者コメント:
本研究は、骨芽細胞のイメージング像を詳細に観察することにより見つかった現象から解析を開始し、大学院生の上中とともに行った研究です。ご指導を頂きました、大阪大学免疫細胞生物学教室の皆様に厚く御礼申し上げます。

卵黄嚢由来破骨細胞は骨傷後リモデリングに関与する

箭原康人、木村友厚、Benjamin Alman
(富山大学医学部整形外科、Duke大学医学部整形外科)

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これまで破骨細胞は、骨髄造血幹細胞に由来するマクロファージ/単球系細胞と考えられてきた。しかし今回の研究から、破骨細胞の一部は造血幹細胞ではなく、胎児卵黄嚢に発生するErythromyeloid progenitor (EMP)に由来することが明らかとなった。胎生7.5日齢に発生したEMPは、E8.5から12.5にかけて卵黄嚢マクロファージへと分化した後、骨への移動を経て破骨細胞へと分化した。この結果からEMPに由来する破骨細胞は、胎生期から生直後における骨髄腔形成に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。また一部のEMP由来破骨細胞前駆細胞は生後マウスの脾臓に長期に渡って在住し、骨傷が起こると血流を介したtraffickingにより骨損傷部へと遊走し、局所の前駆細胞と融合することで成熟破骨細胞へと分化した。Single-cell RNA sequencingの結果から、EMP由来の破骨細胞前駆細胞は造血幹細胞から独立して生ずるという仮説が裏付けられた。
論文キーワード:破骨細胞、卵黄嚢、EM

著者コメント:
整形外科診療において小児の骨折がよくリモデリングする現象を目の当たりにし、小児特有のリモデリング担当細胞(破骨細胞)がいるのではないかと思いこの実験を発案しました。留学先のボスであるDuke大学整形外科Benjamin Alman先生には、実験計画からシングルセル解析の立ち上げ、論文作成まで最大限のバックアップを頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。

関節リウマチの免疫細胞プロファイリングによる疾患活動性および治療抵抗性遺伝子ネットワークの探索

山田紗依子、永渕泰雄、太田峰人、竹島雄介、波多野裕明、岩崎由希子、住友秀次、岡村僚久、庄田宏文、山本一彦、藤尾圭志
(東京大学大学院医学系研究科アレルギー・リウマチ内科、東京大学大学院医学系研究科免疫疾患機能ゲノム学講座、理化学研究所統合生命医科学研究センター自己免疫疾患研究チーム)

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治療介入前の関節リウマチ(RA)患者28名と健常人37名の末梢血単核球16サブセットを分取し、トランスクリプトーム解析を行い、疾患活動性・治療抵抗性と密接に関連する遺伝子モジュールとレパトアの評価を試みた。 結果、治療前のRA患者では、好中球におけるSTAT5Bを含むモジュールが疾患活動性と最も相関し(Spearman's rho (r) = 0.78, p = 5e-04)、治療によりハブ遺伝子の32%の発現が減少した(FDR < 0.20)。治療抵抗性は、形質細胞様樹状細胞(pDC)および形質芽細胞(PB)における、NFκBシグナル遺伝子や炎症抑制遺伝子を含むモジュールと最も相関し(r = -0.61 / -0.54, p = 0.05 / 0.02)、治療によるハブ遺伝子の発現変化には乏しかった(0%, 2%, FDR < 0.20)。またレパトア解析の結果、PBではGini係数は治療感受性と正の相関を認め(r = 0.64, p = 0.005)、治療前後でレパトアの一致に乏しかった。
論文キーワード:関節リウマチ、治療抵抗性、トランスクリプトーム解析

著者コメント:
pDCとPBにおけるNFκBシグナルや炎症制御を司る遺伝子、またPBのpolyclonalな活性化が治療抵抗性と関連する可能性がある。RAの治療予後を予測する新規のバイオマーカー、および既存の治療に抵抗性の症例に対する新規の治療標的となり得ると考え、さらなる研究を続けていきたい。

骨吸収抑制薬による薬剤関連顎骨壊死には炎症性サイトカインの上昇が必須である

相馬智也、森田麻友、岩崎良太郎、中川種昭、宮本健史
(慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科教室、慶應義塾大学医学部整形外科教室)

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2003年Pamidronateの副作用として難治性の顎骨壊死が発生することが報告されて以降、骨吸収抑制薬等による薬剤関連顎骨壊死が多数報告されてきた。しかし、発症メカニズムに関しては未だ解明されていないため、治療法も確立されておらず口腔外科医は治療に難渋している現状である。動物モデルは、2009年頃より報告されてきたが、その多くは薬剤投与と併用等に焦点を当てた研究である。骨吸収抑制剤は全身投与にも関わらず、顎骨にしか壊死が起きないという観点から、薬剤だけでなく口腔内常在菌による感染が発症に寄与していると予想される。そこでわれわれはゾレドロネート投与と侵襲的歯科処置である抜歯を組み合わせた顎骨壊死モデルマウスを作成しそれを用いて顎骨壊死が起こるメカニズムについての解析を行い、抜歯部位局所の炎症性サイトカインの上昇が顎骨壊死に関与していることが明らかにした。
論文キーワード:薬剤関連顎骨壊死、骨吸収抑制薬、炎症性サイトカイン

著者コメント:
この度は第5回日本骨免疫学会での受賞に際し、受賞研究を紹介する機会を頂いたことに感謝すると共に、今後の更なる励みにしたいと思います。発表時に質問も多く頂き今後の研究の参考となるご意見も頂きました。また、多くの先生方がこのテーマに関心を持たれていることを改めて実感致しました。今後、更なる実験を加えることで、将来的には口腔外科臨床への応用へとつなげていけるようにしたいと考えております。本研究にあたり、ご指導いただきました宮本健史先生に深く感謝申し上げます。