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関節リウマチ患者由来の滑膜線維芽細胞における刺激応答機構の解析

キーワード:関節リウマチ、滑膜線維芽細胞、RNA-seq

優秀演題賞受賞 土屋 遥香 先生
(東京大学医学部 アレルギー・リウマチ内科)

【背景と目的】

関節リウマチ(Rheumatoid arthritis; RA)由来の滑膜線維芽細胞(fibroblast-like synoviocyte; FLS)は、RAの病態形成に重要な役割を担う。RA-FLSは非炎症下でも存在する修飾と、サイトカインを主体とする炎症環境により惹起される修飾の双方の影響を受けていると考えられる。本研究では、RA-FLSの特徴的な形質を形成する分子機構の解析を目的とした。

【方法】

FLS(RA: n=20, 変形性関節症(Osteoarthritis; OA): n=18)を、各種サイトカイン(TNF-α・IL-1β・IL-6/sIL-6R・IFN-γ・IFN-α・TGF-β1)および関節液中のサイトカインの混在をシミュレートとした全サイトカインのコンビネーションで刺激した。刺激後24時間における遺伝子発現を、RNA-seqにより網羅的に解析した。

【結果】

まず全サンプルの遺伝子発現を俯瞰すると、RA-FLSとOA-FLSの遺伝子発現には無刺激下・刺激下を問わず明瞭な差が存在し、非炎症下でも存在する修飾を反映していると考えられた。Weighted gene co-expression network analysisおよび機械学習(random forest)を用いた解析により、RA-FLSで特徴的に亢進するpathwayとして、PI3K/AKT signaling, WNT signalingが挙がった。これらの下流にはETS1に代表されるRAの疾患感受性遺伝子が存在し、RAの発症に重要な分子経路である可能性が示唆された。
一方、RAの病態に関わるkey molecules(例: MMP3, CSF2)の発現は、全サイトカインのコンビネーション刺激下において単独刺激と比較し著明に亢進し、遷延した。前者で特徴的に変動する遺伝子群には、NFkBとの結合が知られているエピゲノム制御因子のp300などが含まれた。

【結語】

トランスクリプトームの網羅的解析にゲノム・エピゲノム情報を統合した研究により、RA-FLSの転写制御を中心とした分化経路が明らかとなることが期待される。

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